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【解説】
医療情報システムの仮想化
  1. 0.医療情報システムの仮想化について
  2. 1.サーバ仮想化の概要と用語の整理
  3. 2.サーバ仮想化技術の種類と機能
  4. 3.医療情報システムにおける仮想化
  5. 4.病院内部門システムの仮想化事例
  6. 5.病院内における運用方法と課題
  7. 6.クラウドへの展開
第1回 サーバ仮想化の概要と用語の整理
第1回 目次
仮想化とサーバ仮想化

 ITの世界では“仮想化”というキーワードがよく用いられます。例えば2点間の離れたプライベートネットワークを仮想的につなぎ,あたかも直接繋がっているようなネットワーク環境を実現するVPN(Virtual Private Network)があります。病院情報システムにおいてVPNは,例えば地域医療ネットワークで病院間を安全に接続するために用いられることがあります。ソフトウェアを開発する際,プログラマが多用する“仮想化”もあります。ソフトウェア部品の連携部分を“仮想化”することによって,機能の拡張や再利用性を向上させることができます。

 サーバ仮想化はプラットフォーム仮想化技術の活用による“コンピュータの仮想化”です。プラットフォーム仮想化では,1つの物理的なコンピュータで複数の仮想的なコンピュータを動作させることができます。

仮想化とサーバ仮想化
図1.1 仮想化とサーバ仮想化

 図1.1は,プラットフォーム仮想化に関わる“仮想化技術”をまとめたものです。1つの物理的なコンピュータには,一般に,物理的なCPU,物理的なメモリ,物理的なネットワークインタフェース,物理的なストレージ(ハードディスクドライブ)など,物理的な装置が構成されています。サーバ用のコンピュータには一般的に,図1.1にあるようにRaid(Redundant Arrays of Inexpensive Disks)などの“ストレージ仮想化技術”が用いられることが多く,ハードディスクの故障時に対する耐障害性を向上しています。

 通常,これらの物理的なコンピュータの上でWindowsなどのOS(Operating Systems)が動作し,その中で電子カルテシステムなどのアプリケーションプログラムが実行されます。一方,プラットフォーム仮想化では,これらの物理的なコンピュータの上でハイパーバイザと呼ばれる仮想化のためのソフトウェアを実行します。ハイパーバイザは,複数のコンピュータ(Virtual Computer)を仮想的に生成します。生成された仮想コンピュータには,仮想的なCPU,仮想的なメモリ,仮想的なネットワークインタフェース,仮想的なストレージなど,仮想的な装置が構成されます。これまで物理的なコンピュータ上で構成してきたのと同様に,仮想的なコンピュータ上にはOSを動作させることができ,OS上ではアプリケーションプログラムを実行することができます。

 ハイパーバイザは,複数の仮想コンピュータに仮想的な装置を実現するために,物理的な装置を活用します。例えば,複数の仮想的なCPUを実現するために物理的なCPUを使用します。いいかえれば,複数の仮想コンピュータは物理的なCPUを共有する形で実行されます。

 近年,物理的なサーバ製品は非常に高い性能を持っているため,CPUやメモリなどの物理的な能力を持て余してしまうことが少なくありません。プラットフォーム仮想化を用いると,複数の仮想的なコンピュータが物理的な装置を共有して使うため,持て余していた物理的な能力を効率よく活用することができるようになります。その結果,TCO(Total Cost of Ownership)の削減が期待できるとされています。これが,プラットフォーム仮想化がコモディティ化しつつある大きな理由の一つです。

病院情報システムとプラットフォーム仮想化

 プラットフォーム仮想化では,デスクトップPC用のOSも仮想コンピュータ上で実行することができます。デスクトップPCを仮想コンピュータとして実行し,デスクトップ画面を利用者に転送するようにします。こうすることで,複数のデスクトップPCを1台の物理コンピュータに集約することができるようになります。このような仮想化をデスクトップ仮想化といいます。

 デスクトップPCの実行環境を集約することができるため,デスクトップ仮想化はセキュリティの向上に寄与すると考えられています。病院情報システムで取り扱う医療情報には極めて高いセキュリティが求められています。デスクトップ仮想化により,病院情報システムの利用者が医療情報データに直接アクセスできないようにすることによって,セキュリティ性を高めることができると期待されます。

 そのため,日本国内の病院情報システムにおいて,デスクトップ仮想化については導入事例が既に報告されています。一方,サーバ機能を提供するコンピュータをプラットフォーム仮想化により構築した事例は,皆無といってよい状況でした。

 筆者らは,帝京大学医学部附属病院のシステム構築において,プラットフォーム仮想化を活用したサーバ仮想化を積極的に進めました。現在では33の仮想サーバが一度も停止することなく稼働し続けています。

用語の整理

 本節ではプラットフォーム仮想化に関わる用語を整理します。特別な断りのない限り,本節で説明する用語を本連載記事にて使用します。

サーバ仮想化
プラットフォーム仮想化により,サーバ機能を提供するコンピュータを仮想化すること。一般に,プラットフォーム仮想化のことをサーバ仮想化といいますが,デスクトップ仮想化をプラットフォーム仮想化により実現することもあるため,これを区別するためにサーバ仮想化と記します。
仮想マシン
プラットフォーム仮想化により構成される仮想的なコンピュータ。一般には,仮想ゲストなどということもあります。
仮想環境
プラットフォーム仮想化により構築される仮想マシンを実現するための環境。
ハイパーバイザ
プラットフォーム仮想化を実現するためのソフトウェア製品の中核プログラム。ハイパーバイザによって仮想環境が構築され,仮想環境上で複数の仮想マシンが実行できるようになる。
仮想化ソフトウェア
ハイパーバイザを含むプラットフォーム仮想化のためのソフトウェア。
仮想ホスト
仮想環境を構築するための物理的なコンピュータ。物理的なコンピュータにハイパーバイザを含む仮想化ソフトウェアをインストールすることで,仮想環境を構築することができるようになる。

 第2回「サーバ仮想化技術の種類と機能」では,主要な仮想化ソフトウェア製品,2種類のハイパーバーザについての説明,近年の仮想化ソフトウェア製品の機能について解説します。

(文責:水谷,2011-05-14更新)