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第4回 病院内部門システムの仮想化事例
第4回 目次
部門システムの仮想化の利点

 病院には,いわゆる電子カルテ製品のほかに様々な部門システムが導入されています.大規模な病院になればなるほど部門システムは多くなり,その導入から運用までの費用は高くなります.部門システムは病院内の各科に即したシステムが多いために,利用者ニーズを踏まえてシステムの入換えがあったり,機能追加が行われたりすることが多いという特徴もあります.そのため,システムの導入から運用までの過程を柔軟に管理できることが望まれます.

 しかしながら,我が国における病院情報システムの導入では,実際のところ電子カルテシステムのベンダーが部門システムの導入に至るまでを請け負う形になることが多いように見受けられます.電カルテシステムのベンダーはハードウェアメーカであったりする場合も多く,サーバやネットワーク機器などのハードウェアと電子カルテ製品のソフトウェア,さらには部門システムまでもが全て一括で導入されることがあります.この方法は,全てベンダーに任せられるという点で有効ですが,特定ベンダーへの依存性が高くなるため,その後のシステム変更や新たな部門システムの導入などにおいてコスト増を招くこともあります.

 また,システムの効率性の面では,昨今のハードウェアは性能が高く,部門システムを運用する目的においては余剰な場合も少なくありません.部門によってはシステム負荷が高くなる時間が決まっていて,それ以外は何も処理していないような状況になるものもあります.システムの導入から運用までのコストを抑えるためにも,こうした無駄を減らしていく必要があります.

 サーバ仮想化は,こうした導入から運用に至る課題を解決する方法として有効です.余剰な性能を複数の部門システムへ分配することで,サーバハードウェアの導入規模を小さくすることができます.その後の運用も柔軟に対応可能です.以下,サーバ仮想化に関わる3つのシナリオを紹介します.

部門システムの仮想化における3つのシナリオ

①部門システムの冗長化と設置スペースの問題

 部門システムであっても,病院業務を支えている上で止まることなく稼働し続けなければなりません.ハードウェアの故障に備えようとすると部門システムであっても冗長構成をとらざるを得ない場合があります. システムによっては2つ以上の異なる役割のサーバがあり,それぞれ冗長化する必要があったりする場合もあります.数十の部門システムをそれぞれ冗長化するとなると,サーバの数はその倍以上の量で増えることになります.サーバの数が増えると,サーバの設置場所や電源設備の問題,空調設備の問題なども課題になってきます.

 サーバ仮想化製品には,高可用性を高めるための機能を備えているものがあります.例えばマイグレーション機能により,仮想ホストのハードウェアに障害が発生したときに,他の仮想ホストへ仮想マシンを移動することができます.この際の移動は,仮想マシンを止めることなく行われます.つまり,仮想マシンとして部門システムを導入すれば,停止することなくハードウェア部品の交換などが可能になります.このほか,万一システム停止があった場合でも自動的に即時に再起動する機能などを有するサーバ仮想化製品もあります.これらの製品を導入することによって,部門システムの冗長化はほとんど不要になります.

 また,サーバ仮想化によって,複数の部門システムを1つの仮想ホストに集約できます.結果的に物理サーバの数を減らすことができますし,前述のような性能余剰の課題も軽減されるため効率的なシステム運用が可能になります.

②部門システムの新規導入や変更

 部門システムを新規に導入したり変更したりする際には,新たなハードウェアの導入が必要になることがあります.費用面で割高になるだけでなく,ハードウェアの設置場所や古いサーバハードウェアの廃棄などを考えなければならないことがあります.

 サーバ仮想化では,仮想ホスト上に仮想マシンをすぐに用意することができます.仮想マシンはファイル単位で管理されますので,あらかじめOSをインストールした状態の仮想マシンのファイルを用意しておき,必要な時にコピーして新しい仮想マシンとすることによって,OSインストールの手間を大幅に削減できるなど短期導入が可能になります.

 部門システムの変更や部門システムの停止の際は,仮想マシンのファイルを削除するだけで旧システムを破棄することができます.破棄せずに残しておく場合も,物理的なハードウェアは存在しませんので,システムの設置スペースを占有することはありません.

③システム管理の容易性とハードウェア障害への対応

 サーバ仮想化を用いずに物理的にシステムを導入している場合は,ハードウェア障害による部品交換など際にシステムの停止を余儀なくされます.これを回避するためにはハードウェア単位での冗長化を免れません.また,各システムの状況の把握もベンダーごとに管理ツールが異なる場合があり,それぞれのシステムに応じて管理方法を理解しておく必要があるなど効率的とは言えません.

 サーバ仮想化では,前述したようにライブマイグレーション機能を使うことによって,仮想システムを停止することなくハードウェア障害に対する対処が可能になります.また,仮想マシンを一括管理できるグラフィカルなツールが提供されます.仮想マシンの状況を把握しやすいため,継続的で効率的なシステム運用が可能になります.

病院情報システムの仮想化事例

 筆者らは,帝京大学医学部附属病院の病院情報システム構築において主に部門サーバ群の運用インフラとしてサーバ仮想化製品を導入しました.2009年5月から本運用を開始し,当初は30の仮想サーバの運用でしたが,2012年12月現在では約40の仮想サーバが稼働しています.開発・研究用サーバ群を含めると計60以上の仮想サーバが稼働しています. 図1は仮想環境を管理する画面の例です.各仮想マシンの稼働状況と物理的なハードウェアの使用状況が一目でわかるようになっています.

 図2には当院の仮想環境のシステム概念図を示します.複数台の仮想ホストがあり,それぞれの仮想ホストは共有ストレージにFC(Fiber Channel)で接続されています.部門システムは各仮想ホストのなかで仮想ゲストとして動作します.仮想ゲストのファイルは共有ストレージに格納されており,他のシステムと共有しているバックアップ装置を使って万一の障害に備えています.

 これまで, サーバ仮想化製品に起因するシステム障害は発生していません.仮想ホストで数回のハードウェア障害(障害予兆検知を含む)が数回発生しましたが,ライブマイグレーションを用いましたので各部門システムを停止することなく部品交換を実施することができました.

 仮想化に際しては,各部門システムベンダーの事前同意を経て行っています.2009年当時は,残念ながら仮想化自体をご理解されていないベンダーが多く,同意いただけない場合もありました.近年,次第に仮想化対応の重要性が認知されつつあり,医療情報系のシステムベンダーの対応も増えつつあるようです.

 しかしながら,部門システムの仮想化では複数のシステムが雑多に共存する形になるため,仮想環境全体のバランスを考慮しないと,パフォーマンスの急激な低下などのトラブルを引起こす可能性もあります.システムを運用する病院側の関係者が,仮想化に関わる正しい知識をできるだけ備えておくことも,病院情報システムの仮想化を成功させるために不可欠です.第5回「病院内における運用方法と課題」では,筆者らの事例を踏まえて運用方法と今後の課題について概説します.

サーバ仮想化製品による仮想環境の管理画面例
図4.1 サーバ仮想化製品による仮想環境の管理画面例
サーバ仮想化製品による仮想環境の管理画面例
図4.2 サーバ仮想化製品による仮想環境の管理画面例

(文責:水谷,2012-12-26更新)