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第6回 クラウドへの展望
第6回 目次
仮想化とクラウドコンピューティング

 クラウドコンピューティングという言葉が浸透してからだいぶ経ちましたが,その言葉の定義はあまり明確になっていません.従来,情報システムを自組織の建物内に導入・管理していたオンプレミス方式に対して,情報システムをインターネット上のどこかに置いて,常にインターネットを介して利用する形態をクラウドコンピューティングと定義することが多いようです.

 クラウドコンピューティングのサービス形態には,IaaS(Infrastructure as a Service),SaaS(Software as a Service),PaaS(Platform as a Service)などがあります.IaaSは,サーバやネットワークなどのハードウェアをインターネット上で提供するサービスです. SaaSはアプリケーションソフトウェアをインターネット上で提供するサービスです.PaaSは,アプリケーションソフトウェアなどの実行基盤となるフレームワークやデータベースなどをインターネット上で提供するサービスです.

 ほとんどの場合,IaaSではこれまで本解説で述べてきたサーバ仮想化が用いられています.サーバ仮想化を自前で用意することなく利用できますし,仮想環境そのものの運用をサービスプロバイダーに任せることができるため,運用コストの削減が可能になる場合もあります.

病院情報システムのクラウド化

 病院情報システムにおいては,サーバを設置する場所を確保できないなどの物理的な制約が伴う場合が少なくありません. IaaSを用いてシステムを構築すればこの問題を解決することが可能です.今後,SaaS形式の電子カルテや部門システムも登場してくるかもしれません.システムのTCP(Total Cost of Ownership)を削減する手段として,病院情報システムのクラウド化はますます注目されると考えられます.

 しかしながら,非常に機微な診療情報をインターネットを介して扱うことになるため,情報漏洩に対する心配は拭えません.システムレスポンスの低下など性能面の影響も考えられます.信頼性の面でも十分とは言えません.2012年6月, IaaSを提供している国内のサービスプロバイダーでほぼ全てのデータが消失し,約5700社に影響を与えたという事件が発生しました.海外のプロバイダーでも障害が発生し,復旧に数時間以上を要したという事例がいくつも報告されています.高い信頼性を掲げるクラウドサービスも登場していますが割高になる場合が多く,オンプレミスで導入する場合とのコスト的メリットが必ずしも優位になるわけではないことに注意が必要です.

ハイブリッドクラウドと災害への対応

 ハイブリッドクラウドとは,オンプレミスのシステムとインターネットを介したクラウド環境を同時に利用する形式のクラウドコンピューティングです.オンプレミスのシステムのことをプライベートクラウドと呼び,インターネットを介したクラウドをパブリッククラウドと呼ぶことがあります.両方のクラウド環境を同時に活用するため,ハイブリットクラウドと呼ばれています.

 サーバ仮想化製品の中には,ハイブリッドクラウドに対応するものが登場してきました.図1に示すように,通常はオンプレミスで動作する仮想環境ですが,何らかの条件が発生したときに仮想ゲストをクラウド上の仮想環境へ移動し,システムの稼働を継続させようとする機能です.

 病院情報システムは災害発生時でもシステム稼働の継続性が求められます.万一,災害が発生してオンプレミス環境でシステムを稼働できなくなっても,一時的にパブリッククラウド環境で稼働させることでシステムを継続利用することが可能になるかもしれません.

ハイブリッドクラウドを活用した災害対策
図6.1 ハイブリッドクラウドを活用した災害対策

 以上,6回にわたって医療情報システムの仮想化について紹介してきました.仮想化技術は発展を続けており,医療情報システムの運用に有用な機能も増えつつあります.本連載が貴院の仮想化技術の導入に少しでもお役にたてれば幸いです.

(文責:水谷,2012-12-26更新)