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第5回 病院内における運用方法と課題
第5回 目次
病院内におけるサーバ仮想化の運用方法の一事例

 第4回で,筆者らの病院におけるサーバ仮想化の導入事例について紹介いたしました.本節では,サーバ仮想の運用方法の一事例として2つの事項を紹介します.

①サーバ仮想化環境の運用

 サーバ仮想化は,仮想環境を構成するために,仮想ホストと呼ばれる物理コンピュータ,仮想ゲストを格納するためのディスク,これらを接続するネットワーク機器類,仮想環境を管理するためのサーバなどから構成されています.これらの仮想環境を構成するための仕組みは,本来は電子カルテや部門システムのベンダーには依存しません.

 従来,物理サーバによって部門システムを導入している場合は,物理的な機器からそれらの機器上で動作するソフトウェア製品に至るまでを,各システムのベンダーによって運用・保守されるケースがほとんどでした.サーバ仮想化では仮想環境を構成したベンダーに対応を依頼するのが適切と考えられます.

 筆者らの事例では,仮想環境に関しては専任の業者に委託して運用を行っています.具体的には,仮想環境そのものの状況監視,仮想環境上で仮想ゲストとして稼働している部門システムの状況監視,障害検知時の対応,メンテナンス作業が生じた場合の対応などを委託しています.例えば,ある部門システムの仮想マシンが何らかの理由で不慮に再起動した場合,それを検知した運用業者は該当する部門システムベンダーの担当者に連絡するようにしています.このような障害発生時の運用フローは,病院側担当者,仮想環境の運用業者,各部門システムの担当者間で事前に協議して決定しています.

②仮想ゲストの配置と最適化

 サーバ仮想化では1つの物理的な仮想ホストを複数の仮想ゲストが共存する形になります.負荷が大きく,病院業務に影響を与える部門システムの仮想ゲストは,可能な限り異なる仮想ホストに配置する方が相互の負荷の影響を分散できます.また,業務影響が低かったり限定的だったりする部門システムの仮想ゲストでは,メモリやCPUの割り当て優先度を下げることによってシステム全体の効率を高めることが可能になります.このような,ゲストの配置と最適化は,病院運営のポリシーや状況を踏まえる必要があるため,仮想環境の運用業者や各部門システムベンダーでは対応できません.病院側の情報システム管理者が計画をその責任と実施を担う必要があります.

病院内におけるサーバ仮想化の課題

①システムベンダーの仮想化対応

 筆者らの事例でも述べましたが,各システムのベンダーの仮想化対応が遅れていることが少なくありません.ベンダー側が仮想化対応を検討していても,責任範囲の定義の観点から対応に躊躇しているベンダーも見受けられます.ベンダーの仮想化対応を促すには,仮想化に関わる責任を病院側が持つなど責任分解点の明確化が必要です.しかしそのためには,後述するように仮想環境の運用に関わる病院側の体制作りも不可欠です.

②ライセンス問題

 部門システムなど各システムで使われているミドルウェアなどのライセンスが,仮想化によって高くなる事例があります.例えば,一部のデータベース製品は物理マシンのCPUの数に基づいてライセンス数を決定するものがあります,仮想ホストに用いる物理サーバが多くのCPUを搭載している場合,仮想ゲストに割り当てるCPUの数が少なくても,仮想ホストのCPUの数に基づいてライセンス数が決定されてしまいます.そのため,単純に物理サーバとしてシステムを導入した場合に比べてより多くのライセンスが必要になり,結果的にライセンスコストが高くなる場合があるのです.

③仮想化に関わる病院側担当者の教育と運用ノウハウの蓄積

 筆者らの場合,病院情報システムとして仮想化を導入する前から,約10年間にわたって仮想化技術を利用してきた経験がありました.仮想化に関わる知識と利用におけるノウハウを事前に有していたことが,病院システムへの仮想化の導入を成功させたといえるかもしれません.

 前述したように,病院情報システムの仮想化の効果を最大限にするには,仮想化に関わる設計から運用までの過程を業者任せにするのは好ましくありません.病院側の担当者が仮想化に関わる知識を持ち,病院運営を考慮しながらシステムの導入から運用までの計画を立案・実行していく必要があります.そのためには,病院側担当者の仮想化に関わる技術的な知識の習得は必要不可欠です.運用ノウハウについては,病院情報システムにおける仮想化はまだ黎明期といえる状況ですので,筆者らのような先駆的事例などを頼りに各病院の適した運用法を検討していく必要があります.

 第6回では「クラウドへの展望」と題して,病院情報システムの仮想化における今後の展望について述べます.

(文責:水谷,2012-12-26更新)